ホウ砂に吹かれて

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日本の精神医療は進んでいないらしい

早速ですが、『「精神病」の正体』(著者:大塚明彦)という本を買って読みましたので、頭の中に入れておきたい内容についてここにアウトプットしておこうと思います。

今回は「日本の精神医療は進んでいないらしい」ということでまとめてみました。

「精神病」の正体

アウトプット

一見進歩しているように見える精神医療

20世紀後半から21世紀にかけて、多くの優れた治療薬が出てきました。それに伴い、これまで入院治療しか治療法がないと考えられてきた精神疾患も、入院治療が幅広く行われるようになったのです。

2016年4月には障害者差別解消法が施行され、(精神を含む)障害者が不利益を被ることがないよう法整備されました。また、改正障害者雇用法も施行されています。

このように、精神医療や精神障害者を取り巻く環境は進歩しているように見えますが、そうではない側面もあるようです。

ヨーロッパにおける精神医療

ヨーロッパはキリスト教の影響が強く、精神病は悪魔が取り憑くことで、発症するとされ、それを治療する名目で「魔女狩り」が行われていました。

有効な治療法のなかった時代から患者を収容監禁してきたという歴史があり、「強制衣」と呼ばれる拘束具につながれたり、灌水療法や回転療法といった、現在の常識からするとあり得ない治療法もありました。さらには見世物にされるなど、人間扱いされない時代が続きました。

転換点として、産業革命フランス革命のあたりにヒューマニズムが台頭してきたことをうけ、精神病患者を人道的に看護するべきだ、という方針転換が起こりました。

また、ドイツでは研究が盛んに行われ、中でも代表的なのがエミール・クレペリンによる「早発性痴呆(現在の統合失調症)」と「躁鬱病双極性障害)」の分類です。この分類は教科書として発表され、現在のDSMなどに引き継がれています。

20世紀になってようやく本格的な治療法が開発され、それらが一定の効果を上げるようになりました。1952年には統合失調症クロルプロマジンが導入されるなど、抗精神病薬が精神医療に新たな道を開きました。クロルプロマジンドーパミンを抑える働きがあり、幻覚や妄想、不安、興奮、衝動性に対して効果を上げました。

そして、1960~80年代にかけて、入院治療よりも地域医療が主体になっていきました。地域医療のメリットとしては、社会に関わることで適応力が養われ、社会復帰のハードルが下がることと、偏見が覗かれる、ということがいえます。

日本における精神医療

それに引き換え、日本では薬物療法が導入されているにもかかわらず、入院患者数は30万人を超え、平均入院日数も300日に近く、これは世界でダントツの長さです。こうしたところから、日本の精神医療は遅れていると言われています。

日本では江戸時代後期の当たりから、寺院に精神病患者を収容する施設がありましたが、その数は多くなく、「私宅監置」という形で広く行われていました。

明治に入り、呉秀三精神病者の救済・保護を訴え、二度の世界大戦を経て、1950年精神衛生法が制定されました。

問題はここからですが、抗精神病薬の普及により欧米では精神病床が減少する傾向にあるのに対して、日本では急増しているのです。その原因として、一つは1964年のライシャワー事件、もう一つは結核病棟の減少があるといいます。リファンピシンの開発により結核は治る病気となり、結核病棟が減少しましたが、そこでの雇用を守らねばなりません。結核病棟は町中から離れていることが多いのですが、それも精神疾患の方の病床として都合がよかったこともあるようです。こうして精神病棟は「社会的入院」の受け皿になっていったのです。ちなみに、日本の病床数は欧米諸国の平均の3倍、全世界の5分の1といわれています。

日本の精神医療は進んでいないらしい

日本で入院治療が中心となり、さらに長期化しやすい背景には、精神科医の意識があるといいます。

クレペリンによる分類の早発性痴呆は、治りにくい(予後の悪い)という認識が広まり、1908年ブロイラーによって「連想分裂をもった精神障害のグループ(スキゾフレニア)」と命名され、それが日本で「精神分裂病」という言葉に置き換えられ、一般化しました。
(現在は統合失調症と呼ばれています)

日本の精神科医の中には重い統合失調症などの患者に対し、「あなたの病気は一生治らない」という人も珍しくなく、中には定期的に入院を指示され、病院と自宅を転々とさせられるケースもあるようです。

しかしながら、統合失調症などの疾患が「恐ろしい不治の病」であったのは、100年以上前(クレペリンの時代)の常識であり、精神医療が進歩した現在もそういった古い常識にとらわれている医師・医療は進んでいるとは言いがたいのです。

感想

気分障害発達障害者の僕としてはなかなか考えさせられました。時代に伴う精神医療の変化は、この本で読む分にはあっという間ですが、実際の進歩としては100年単位で、薬物療法により外来通院が広まるのはつい最近のことです。生まれてくる時代が違えば、自分のような人間はトンデモ療法を施されていたり、酷い場合には命を奪われていたのかもしれません。そういう意味ではこの時代に生まれてきて、今かかっている医師も悪質ではない(と思いたい)ことは、幸運なことなのだと思います。
また、現代の医療は進んでいるものと思い込み、思考停止するのではなく、大昔の常識にとらわれている医師がいるという現実がある中、我々患者の側もある程度勉強しておかなければいけないと思いました。