定型うつ病と非定型うつ病
かつて、うつ病は「優等生」「模範生」タイプがかかりやすい心の病であるといわれていました。しかし、近頃は周囲からは「わがまま」とみられてしまう患者が増える傾向にあります。
定型うつ病と非定型うつ病
定型うつ病の特徴
- 中高年(特に男性)に多い
- 大好きなことであってもできない
- 自己犠牲的な献身的態度
- 自責的で罪悪感を持つ
- 自分の発言に控えめで慎重
- 自ら休職に関する診断書を求めない
非定型うつ病の特徴
- 若い世代(どちらかといえば女性)に多い
- 好きなことはできるが、嫌いなことはできない
- 自己愛的傾向が見られる
- 他罰的傾向が強い
- 他人の些細な一言に傷つく
- 自ら休職に関する診断書を求める
うつ病になりやすい性格とは
一昔前までうつ病になりやすい性格といえば、几帳面、生真面目、仕事熱心で責任感が強いなどといった性格の特徴がよく挙げられていました。精神医学の世界では、メランコリー親和型性格、あるいは執着気質と呼ばれています。職場や学校では、いわゆる「優等生」「模範生」と位置づけられるような人たちに当てはまります。
こういった性格の人は、当然のことながら器用な性格ではなく(ズル賢さが足りない)、どちらかといえば不器用な方で(世渡りが下手)、他人から頼み事をされると「ノー」が言えないことが少なくありません。結果として、職場などでは仕事が次から次へと降ってきて、気付いたときには山積みになってしまっていた、なんてこともあるのではないでしょうか。
自己主張も下手であり、言いたいことがあっても我慢してしまうが故に、必然的にストレスは蓄積されていきます。しかも当の本人は、何かを頼まれてもイヤそうな表情を浮かべることができないため(それが「大人の対応」ってモンだと思うのですが)、その傾向はますます顕著になっていきます。最終的には、容量オーバーを来してコップから水があふれ出るようなカンジになってしまい、その頃になってやっと周囲の人たち、本人も異変に気付くということになります。水があふれてしまう前に何らかのセンサーのようなものが働けば良いのですが、それがうまく機能していないのでしょう。信号機で言えば、黄色のシグナルがなく、いきなり赤信号になってびっくりするのに似ているかもしれません。
蔓延しつつある“非定型うつ病”
今日では、現代社会を投影したと思われる新しいうつ病が蔓延しつつあります。先述のうつ病に対して「非定型うつ病」と呼んでいます。希薄な親子関係、過酷な受験戦争、いじめなどにより情緒的なコミュニケーション能力の発達が阻害され、普通の対人関係が構築できない状況が病の下地になっている可能性が大きく、若い世代、特に女性に見られやすい傾向があります。
非定型うつ病は、自分が好きなことをしているときは何ら問題ありませんが、イヤなこと、例えば仕事をしているときに抑うつ状態が激しく認められます。自分の都合の悪いときなどに抑うつ症状が発生するので、“わがまま病”のように取り扱われることもあります。
しかし、彼らは本当にうつ症状に苦しんでいます。突然に涙があふれ、感情のコントロールができなくなり、周囲に助けを求めようとします。周囲の人たちは彼らの本当の苦しみを十分に理解できないため、改善されるどころか、彼らの精神的苦痛はますます悪化し、悪循環を招くこともあります。
現在、都心のクリニックでは、3~5割の患者さんが非定型うつ病、あるいはその疑いがある患者さんです。こうした人に対してはわがままと決めつけず、医療機関へつなぐ対応が求められます。